
インドネシアの首都移転はいつ実現するのか、世界中から多くの注目が集まっています。現在の首都ジャカルタからどこへ、そして一体なぜ移転する必要があるのでしょうか。
新首都ヌサンタラと名付けられたこの巨大プロジェクトには、日本企業のビジネスチャンスへの期待も寄せられています。一方で、計画が失敗に終わるのではないかという懸念の声も上がっており、その先行きは不透明です。
この記事では、インドネシアの首都移転計画に関する最新情報を網羅的に解説します。
記事のポイント
- 新首都ヌサンタラの基本情報と移転スケジュール
- 首都移転が決定された背景とジャカルタの課題
- 計画が直面している問題や失敗のリスク
- 日本企業への影響とビジネスの可能性
インドネシア首都移転はいつから?計画の概要
- 新首都の場所はどこ?ヌサンタラの基本情報
- 首都移転はなぜ?ジャカルタが抱える課題
- 首都移転の公式スケジュールと5つの段階
- 2024年の独立記念式典と現状の進捗
- 完成済みのインフラとこれからの建設予定
新首都の場所はどこ?ヌサンタラの基本情報

インドネシアの新首都は、ジャカルタから約1,200キロメートル離れたカリマンタン島(ボルネオ島)の東部に建設されます。具体的には、東カリマンタン州の北プナジャム・パスール県とクタイ・カルタヌガラ県にまたがるエリアです。
この新しい首都は「ヌサンタラ」と名付けられました。ヌサンタラとは、古ジャワ語で「群島」を意味する言葉であり、1万7,000以上もの島々から成るインドネシアという国家を象徴しています。
新首都の都市開発コンセプトは、「グリーン・シティ」と「スマート・シティ」です。これは、豊かな自然と共生しながら、最新技術を活用した持続可能な都市を目指すという考えに基づきます。
計画では、市内の移動の80%を公共交通機関でまかない、エネルギーは100%再生可能エネルギーを利用することを目指しています。豊かな熱帯雨林を活かし、環境に配慮した未来都市をゼロから築き上げる壮大な国家プロジェクトです。
首都移転はなぜ?ジャカルタが抱える課題

インドネシア政府が首都移転という大きな決断を下した背景には、現在の首都ジャカルタが抱える深刻な問題があります。主な理由は、人口の一極集中とそれに伴う都市問題、そして環境問題です。
ジャカルタ首都圏には約3,000万人が暮らし、インドネシアの人口の半数以上が集中するジャワ島の中でも特に過密な状態となっています。
このため、交通渋滞は世界最悪レベルと言われるほど深刻化し、大気汚染も健康に影響を及ぼす水準に達しています。経済活動がジャワ島に集中することで、他の島々との経済格差が拡大している点も長年の課題でした。
さらに、地盤沈下は喫緊の課題です。工業用や生活用としての過剰な地下水の汲み上げにより、ジャカルタ北部の沿岸地域では過去に最大4メートルも地盤が沈下した場所があります。
このままでは、2050年までに市内の大部分が海面下に沈むという予測もあり、洪水や高潮のリスクが年々高まっています。これらの複合的な問題を解決し、国土の均衡ある発展を促すため、首都機能の移転が必要だと判断されました。
首都移転の公式スケジュールと5つの段階

インドネシア政府は、2022年から2045年にかけて首都移転を段階的に進める計画を立てています。この長期間にわたるプロジェクトは、以下の5つのフェーズに分けられています。
フェーズ | 期間 | 主な計画内容 |
フェーズ1 | 2022年~2024年 | 道路、水道、電力などの基礎インフラ整備。大統領官邸、主要省庁など政府中心機能の移転。 |
フェーズ2 | 2025年~2029年 | 防衛・安全保障機関の移転。ビジネス促進のための工業団地や観光施設の開発。 |
フェーズ3 | 2030年~2034年 | インフラの拡張と輸送システムの開発。スマートシティ関連技術の本格導入。 |
フェーズ4 | 2035年~2039年 | 教育・研究機関やヘルスケア分野の施設を拡充。スマートシティ機能の実装を推進。 |
フェーズ5 | 2040年~2045年 | 全ての政府機能の移転を完了。交通網を含めた都市全体の整備を終え、先進国入りを目指す。 |
このように、まずは政府機能の土台を築き、徐々に都市機能と住民を移していく長期的な構想が描かれています。最終目標である2045年は、インドネシア独立100周年にあたり、国の新たな発展を象徴する年として位置づけられています。
2024年の独立記念式典と現状の進捗

首都移転計画の大きな節目として注目されたのが、2024年8月17日の独立記念式典です。この日、式典は史上初めてジャカルタと新首都ヌサンタラの2都市で同時に開催されました。
ヌサンタラでの式典には当時のジョコ大統領と次期大統領のプラボウォ氏が出席し、首都移転事業の継続性を国内外にアピールする狙いがありました。
しかし、この式典を境に首都移転の機運が本格化するはずでしたが、現実は計画通りには進んでいません。
式典から1年が経過した2025年の独立記念式典は、メイン会場がジャカルタに戻ることが決定しました。これは、ヌサンタラのインフラ整備や準備が十分に進んでいないことを示唆しています。
当初2024年7月から本格化する予定だった公務員の移住も、数回にわたり延期が繰り返されています。2025年8月現在、ヌサンタラで生活しているのは首都庁の職員ら約1,000人に留まっており、「人影のない巨大都市」と報じられる状況です。
このように、象徴的なイベントは行われたものの、実質的な首都機能の移転は停滞しているのが実情です。
完成済みのインフラとこれからの建設予定

計画の遅れが指摘される一方で、ヌサンタラの中心部では一部のインフラ建設が進んでいます。2025年時点において、大統領が執務するオフィス「ガルーダ宮殿」や主要な官公庁の建物、大臣向けの公邸などはほぼ完成しており、入居可能な状態にあります。
また、公務員向けの宿舎も30棟近くが完成し、カフェやコンビニエンスストア、ホテルなども営業を開始しました。
しかし、これらの建物を利用する人はまだごく少数です。市内では作業員の姿がまばらな工事現場が目立ち、周辺のインフラ整備は道半ばといった印象を与えます。
特に、要人用の新空港の建設は滑走路が1本完成したものの、ターミナルビルなどの建設は遅々として進んでいません。
今後の計画としては、国会や司法機関の建設を含む第2期工事の入札が始まっており、政府は開発を継続する姿勢を示しています。ただし、政権交代後の予算削減の影響もあり、これらの建設が計画通りのペースで進むかは不透明な状況が続いています。
インドネシア首都移転はいつ完了?今後の課題
- 首都移転が失敗する?懸念される3つの問題
- 政権交代による計画の遅れと予算の削減
- 森林伐採で進む環境破壊と住民の不安
- 日本企業の投資やビジネスへの影響は?
- まとめ:インドネシア首都移転はいつ実現するのか
首都移転が失敗する?懸念される3つの問題

壮大な新首都計画ですが、その実現にはいくつもの大きな壁が立ちはだかっており、「失敗するのではないか」という懸念も広がっています。主に指摘されている問題点は、資金調達、政治の優先順位、そして環境への影響の3つです。
第一に、巨額な開発資金の確保が難航しています。総事業費は約466兆ルピア(約4.5兆円)と試算されていますが、このうち国家予算で賄われるのは2割程度に過ぎません。
残りの8割は国内外の民間投資に頼る計画ですが、2025年時点でも投資額は目標に遠く及ばず、特に海外からの大規模な投資は限定的です。
第二に、政治的な不透明感が挙げられます。計画を推進したジョコ前大統領からプラボウォ新大統領へと政権が交代したことで、首都移転の優先順位が低下したと見られています。
新政権が別の政策を重視する中、首都移転が本当に最後までやり遂げられるのか、疑問視する声は少なくありません。
第三に、環境破壊への批判です。「グリーン・シティ」を掲げる一方で、建設地は熱帯雨林を大規模に切り開いた場所です。
オランウータンなど希少な野生動物の生息地への影響や、周辺地域の水資源への悪影響も報告されており、持続可能性というコンセプトとの矛盾が指摘されています。
政権交代による計画の遅れと予算の削減

2024年10月に就任したプラボウォ新大統領は、選挙公約として首都移転の継続を掲げていました。しかし、政権発足後、その姿勢には変化が見られます。
新政権が最も重視しているのは、高校生までを対象とした無料の学校給食プログラムであり、この政策のために国家予算が大幅に割り当てられています。
その影響を直接受けたのが、新首都ヌサンタラ関連の予算です。2022年から2024年にかけては年間平均で約25兆ルピアの国家予算が投じられましたが、2025年から2028年の予算は年間平均で約12兆ルピアへと半減する見込みです。
この大幅な予算削減は、今後のインフラ整備のペースをさらに鈍化させる要因になると考えられます。
また、プラボウォ大統領自身がヌサンタラで執務を開始するのは早くて2028年と表明しており、計画の遅れを容認しているとも受け取れます。
公務員の本格的な移住も2026年以降に延期されており、政権交代が計画全体のタイムラインに大きな影響を与えていることは明らかです。
森林伐採で進む環境破壊と住民の不安

新首都ヌサンタラは「森林都市」というコンセプトを掲げ、環境との共生をアピールしていますが、その実態は大規模な環境破壊を伴っています。
建設予定地はもともと熱帯雨林や産業植林地であり、開発によって広大な森林が失われました。これは、オランウータンをはじめとする多くの野生生物の生息地を脅かすことにつながります。
環境問題は建設地周辺にも広がっています。ヌサンタラへの安定した水供給を確保するため、上流のダムからの取水が優先され、周辺のバリクパパン市などで水不足が懸念されています。
また、建設に必要な大量の砂や石を採掘するために、近隣のスラウェシ島では河川の氾濫や大気汚染といった新たな環境問題が発生しているとの報告もあります。
さらに、地元住民との対話不足も深刻な問題です。首都移転計画は、地元住民への十分な説明や事前の協議がないまま進められました。土地収用や今後の行政サービスに関する情報が不足しており、住民の間では生活への不安が高まっています。
環境と住民の犠牲の上に「持続可能な都市」が建設されようとしている、という批判は根強いものがあります。
日本企業の投資やビジネスへの影響は?

インドネシアの巨大国家プロジェクトは、日本のインフラ関連企業や建設、都市開発に関わる企業にとって大きなビジネスチャンスとなり得ます。
スマートシティの実現に向けた技術協力や、環境インフラの整備など、日本の知見を活かせる分野は少なくありません。実際に、複数の日本企業が現地視察を行うなど、関心を示してきました。
しかし、計画の不透明感から、多くの日本企業は実際の投資には慎重な姿勢を崩していません。象徴的だったのは、ソフトバンクグループが新首都への巨額投資の検討を見送ったことです。
投資に見合う収益性が確保できるのか、政権交代後も計画が安定して継続するのかといったリスクを考慮し、二の足を踏んでいる企業が多いのが現状です。
現地の日系商社幹部からは、「本当に首都が移転するのか不透明な状態で、投資する発想になりにくい」との声も聞かれます。まずはインドネシア政府が明確な道筋を示し、民間企業が安心して投資できる環境を整えることが、日本企業からの協力を引き出すための鍵となります。
まとめ:インドネシアの首都移転はいつ実現するのか
この記事で解説してきた、インドネシアの首都移転に関する重要なポイントを以下にまとめます。
✓ インドネシアの新首都はカリマンタン島の東部に建設される
✓ 新首都の名称は「ヌサンタラ」で「群島」を意味する
✓ 移転の理由はジャカルタの人口過密や交通渋滞、地盤沈下など
✓ ジャワ島への一極集中を是正し経済格差をなくす狙いもある
✓ 計画は2022年から2045年にかけて5段階で進められる予定
✓ 2024年の独立記念式典はジャカルタとヌサンタラで同時開催された
✓ しかし2025年の式典はジャカルタがメイン会場に戻る
✓ 大統領官邸や一部庁舎は完成しているが人はほとんどいない
✓ 公務員の本格的な移住は2026年以降に延期されている
✓ プラボウォ新政権下で首都移転の優先順位は低下したと見られる
✓ 無料給食政策を優先するため首都関連の国家予算は半減した
✓ 総事業費の8割を占める民間投資の集まりが遅れている
✓ 建設に伴う大規模な森林伐採や環境破壊が問題視されている
✓ 地元住民との対話不足や将来への不安も指摘される
✓ 日本企業も関心は高いものの計画の不透明さから投資には慎重な姿勢